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殺人鬼フジコの衝動 [… 国内作品(ミステリ・サスペンス)]


殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)


◇ ◆ ◇ あらすじ ◇ ◆ ◇
 虐待を受けながら育った少女フジコ。両親と妹が何者かに惨殺されるという事件でただ一人生き残った彼女は優しい叔母に引き取られ、新しい人生を歩みだす。だが、少女は次第に狂気へ向かって転落していく。何が彼女を10数人を殺害した殺人鬼としてしまったのか? 

◇ ◆ ◇ 感 想 ◇ ◆ ◇
 殺人鬼の評伝が出版されたという想定で書かれたミステリ。だから架空の評伝の出版にあたって(作中の)作者が書いた後書きまでがこの小説の本文ということになる。前半はただひたすら、胸が悪くなるほど陰湿。
 子供時代のネグレスト、事件の被害者という立場を得て同情をひくことを期待している子供の小賢しさがイライラするほどリアル。これ誉めてるつもりですよ。何しろフジコときたら「自分が優位に立つこと」「他人の評価を実力によらず努力もせず得ること」だけに関心を向けているのだから。中身のない空ろさがよく見えるようになっている。

 中盤、彼氏との悶着をきっかけに悪いほうへ転がり落ちていくのは、フジコの空虚さが招いた当然の結果かもしれないし、不運な偶然の掛け違えかもしれないんだけど、一番肝心な「これ以上はいけない」という躊躇がまるでないから、加速がついてしまうとどうにもならない。
 あれほど自分が苦しんだはずの両親からの虐待を自分も繰り返してしまうあたり、普通の人間ならその矛盾や因業を感じることもあると思うのだが、それもない。徹頭徹尾、自分が他人から良く評価されたいとしか考えていないのだ。

 そして後半、殺人鬼となったフジコの描写が続くが、この部分はあまりぴんとこなかった。過程のないままいきなりちょっとのことでキレて殺人を重ねる描写しかないので、「なしてこうなった」というすっ飛ばされ感が強い。何かもうちょっと書いてくれたらなぁ。少女時代のネチネチ感はとてもよかったんだけど。

 で、最初にも書いたとおり、後書きまでが本文で、この後書きで最後のオチとなる。事件の構成などは薄々、前半あたりから推測は出来たし大体その通りだったのだが、この最後のオチですべての色が変わる。 
 話は変わるがうちの近所においしいラーメン屋があって、ラーメンほんとに美味しいんですが、テーブルにおいてある特製酢を入れると劇的に味が変わってまた美味しい。むしろこの酢にやられて通っている。最初に出てくるしょうゆラーメンもおいしいんだよ、鯖節のにおいと少し甘めのしょうゆがたまんないんだが、特製酢入れた後は香りまで変わってさっぱり最後までいけちゃう。

 この小説におけるオチは特製酢と同じ。なくても十分堪能したのだが、ぽとりと最後にたらしただけで「やっべー これ別のラーメンじゃんね」と呟いてしまうあの感じ。なんて贅沢なんだ。一冊で二度美味しい。

 ごちそうさま、とても堪能しました。そういいながら本を閉じた。

 ああ、ラーメン食べたい。
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